らしさのある家

2021.06.25

団地リノベーションの新発想。間取りを2倍に広げる「ニコイチ」の住まいづくり

​​​​団地リノベーションの新発想。間取りを2倍に広げる「ニコイチ」の住まいづくり

いま、団地が新しく生まれ変わりつつあります。今回ご紹介するのは、近年変化しつつある暮らし方や働き方を見据えて生み出された、住戸リノベーションプラン「ニコイチ」です。2つの住戸を1つにすることで生み出した広い間取りは、これまでにない生活空間を提案しています。2021年6月に完成した「茶山台団地(堺市南区)」の「ニコイチ」にて、大阪府住宅供給公社が提案する“これからの団地暮らし”についてお話を伺いました。

団地リノベーションの新発想。間取りを2倍に広げる「ニコイチ」の住まいづくり

ご案内いただいたのは

大阪府住宅供給公社
高見友也さん

総務企画部 経営企画室 企画課 企画・広報グループ 副主査
角田紀子さん
経営管理部 住宅経営課 団地イノベーショングループ 技師

「ニコイチ」を運営する、府内に約2万2千戸の賃貸住宅(団地・集合マンション)を管理する大阪府住宅供給公社。2015年に始まった「ニコイチ」事業は、これまで累計28プラン・34戸を供給し、若者世帯や子育て世帯を中心に人気を博している。今回のニコイチは、株式会社ナノメートルアーキテクチャー一級建築士事務所が、プラン設計・施工・工事監理業務を担当。

団地の高齢化・高経年化がきっかけ

ニコイチの背景にあるのは、高齢化が進む高経年の団地の再活用です。単身世帯や若年夫婦、子育て世帯などの若年層を誘引するため、建築家などの民間事業者のノウハウを活用した住戸リノベーションを供給しています。緑の多い周辺環境や団地住人同士のコミュニケーションなど、団地ならではの魅力を再発見しようとする思いもあります。

2つの住戸を1つに。「ニコイチ」というアイデア

ニコイチの“ヨコ”と“タテ”2つのプラン

「ニコイチ」では、団地の隣り合う2つの住戸を1つにつなぎ合わせ、90㎡という広々空間に大きく形を変えたリノベーションをしています。茶山台団地には、同階で隣接する住戸をつなげた“ヨコ”「ニコイチ」と上下階の住戸をつなげた“タテ”「ニコイチ」の2パターンがあります。どちらの住戸にも共通しているのが「ロの字壁」。団地ならではの「田の字型」と呼ばれる間取りを変更し、広い共有空間を生み出しています。

“タテ” の間取りとこだわり

上下階をアクティブに暮らす家 4階と5階をつなぎ、1日に何度か階を行き来する生活を想定したプランです。4階にはキッチン・風呂場・リビングなど生活の活動拠点を、5階には寝室・プライベートルームなど自由度の高い個室を用意しています。「5階で起きて4階のLDKで団らんし、5階に出勤して夕方4階へ帰り、5階で就寝する」というような上下を行き来する職住一体の生活も可能です。移動は共有の階段を利用します。

<“タテ”コンセプト>「上下階をアクティブに暮らす家」
<面積>91.68m²

“タテ”ギャラリー

4階:部屋の中央にある「ロの字壁」を軸に、部屋をぐるりと回遊できる動線。

4階:キッチンの目の前はダイニング、横はサンルームでバルコニーにもすぐ出られる。家事の際の動線がスムーズだ。

4階:小上がりリビング。少し腰掛けたり、横になったり使い方はいろいろ。

4階:玄関の横には、ベビーカーや自転車、アウトドアグッズなどを置くことができるスペースもあり。

5階:部屋は、スライド式扉の3つの個室に分かれ、仕事部屋や書斎などにも使える。

5階:中央のレストスペース。

5階:トイレと簡易的な手洗い場が設置されている。

上下階の移動は玄関から。玄関の靴箱は、元々使われていたものを利用。

“ヨコ” の間取りとこだわり

「暮らす」と「働く」が隣り合う家 隣り合う住戸を一つとして、空間の特性をそれぞれ分けることで生活のしやすさ、使いやすさを重視したプランです。部屋の行き来は、玄関とバルコニーから。生活の主軸の集まる「暮らしの部屋」と、仕事や学び・非日常に使える「働きの部屋」の2つに分け、生活と仕事の切り替えがしやすいつくりです。それぞれにゆとりのあるスペースが十分に設けられているので、住む人の暮らしにあった使い方も見つけやすくなっています。

<“ヨコ”コンセプト>「暮らすと働くが隣り合う家」
<面積>91.68m²

“ヨコ”ギャラリー

玄関とつながったバルコニーから東西の部屋を行き来できる。

キッチンとの空間を仕切る壁は、簡易的なDIYも可能。飾り棚や収納スペースに活用できる。

リビングの横にはワークスペースとして利用できる空間も。

中央にキッチンがあり、リビングも見渡せる設計。

窓際に設けられたL字型の余白スペースは、暮らし方によって自由にアレンジできる。

周囲の床に高低差をつけることで、収納スペースを生み出した。

天井にはライティングレールが備え付けられていて、照明のアレンジもしやすい。

「見せる収納」を意識したクローゼット。

ニコイチが目指すこと

職住一体型の暮らしや家族形態に合わせて 「ニコイチ」のターゲットは、単身世帯や若年夫婦、子育て世帯です。そのため、家族人数の変化やテレワークなど新しい働き方など、変わりやすい家庭環境に合わせて柔軟に対応できる間取りにしています。家とオフィス、など明確な分け方ではない、流動的でアクティブな暮らしも可能です。

この団地での取り組みや活動について

幅広い年代が暮らす団地ならではのコミュニティ 茶山台団地の魅力のひとつに、充実した団地内のコミュニティがあります。利用頻度が少なくなった集会所を活用した「茶山台としょかん」や惣菜カフェ「やまわけキッチン」、DIYのやり方を学べる「DIYのいえ」などはすべて、住人のアイデアや要望から生まれた取り組みです。運営にも住人が関わり、団地内の見守りにもつながっています。お年寄りから子どもまで、幅広い年齢が住まう団地だからこそ生まれた風景です。

「この団地での取り組みや活動」ギャラリー

「茶山台としょかん」の外観。ペイントは団地の子どもたちが行った。

「茶山台としょかん」の手作りの本棚には、寄付で集まった書籍や児童書がたくさん。

「茶山台としょかん」では、さまざまなワークショップが行われている。

「やまわけキッチン」。店内飲食や惣菜テイクアウト販売、団地内のお弁当デリバリーなども行っている。

「DIYのいえ」。無料で道具の貸し出しや、ワークショップを開催。

写真提供:大阪府住宅供給公社

これからの住まいとは

変化するライフスタイルに合わせた住環境を テレワークや副業などの働き方が広がり、ライフスタイルが多様化している昨今。リノベーションやDIYが一般化するなかで、暮らし方の選択肢も広がっています。大阪府住宅供給公社では、賃貸物件においても規定の範囲内でのDIYを認めています(※DIY対象団地のみ)。変化するライフスタイルに合わせて、暮らしやすい住環境を提供する必要があると考えています。

今後、力を入れたいのは外部環境の整備。例えば、団地内にウォーキングコースを作ったり、建物のサインデザインを改修するなど、明るくオープンな環境にしたいと考えています。住人のアイデアを柔軟に取り入れながら、愛着を持って長く住んでいただけるような団地にしていきたいです。

最後に

今回は団地リノベーションで始まっている、新しい暮らし方への取り組みをご紹介しました。2つの住戸をそのまま活かして、“食べると寝る”、“生活と仕事”と暮らしを大きく切り分けるというアイデアは目から鱗!茶山台団地を取材をさせてもらってわかったのは、住人同士のコミュニケーションも豊かで、安心して暮らせる環境だということ。進化系団地の発展がこれからも楽しみです。

取材協力

ニコイチ 茶山台団地

[ 所 在 地 ] 堺市南区茶山台2丁1番・2番
[ 交 通 ] 泉北高速鉄道 泉ケ丘駅より徒歩約10分
[ 入居開始 ] 1971年4月
[ 住戸面積 ] 44.98m2~91.68m2
[ 総 戸 数 ] 926戸
[ 構 造 ] 鉄筋コンクリート造 5階建

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