らしさのある家

2021.08.25

商店街で見つけた。古い長屋を生かして、町と暮らす方法

商店街で見つけた。古い長屋を生かして、町と暮らす方法

暮らしを考えた時に、住まう場所を選ぶポイントには何がありますか?駅からの距離・立地環境・学校や職場からの通いやすさ、住みたい町の雰囲気という目線もあるでしょう。
「商店街に住みたかった」という、一級建築事務所SPACESPACEを営む香川貴範さんと岸上純子さんご家族。大阪・中津商店街にある古い空き家をリノベーションして、自宅兼事務所という職住一体型の暮らしをされています。ユーモア溢れる家づくりや商店街での暮らし、これからの空き家活用についてお話を伺いました。

2年半かけて、自らの手で作りあげた自宅兼事務所

うっかりすると通り過ごしてしまいそうな、中津商店街の細い入り口。大阪一の繁華街・梅田からも、徒歩約10分でたどり着ける好立地にもかかわらず、中に入ると、昭和にタイムスリップしたかのような昭和の下町感が残っています。

▲ 中津商店街

「ネットで物件を探していて、偶然見つけたんです。」一級建築事務所SPACESPACEを営む香川貴範さんと岸上純子さんご家族が、ここに拠点を構えたのは、2017年。築105年の長屋を購入し、自分たちの手で改修を行っていきました。

「工務店を入れずに、躯体工事から自分たちで行い、図面も改修しながら現場で組み立てていきました。柱のゆがみ、雨漏り、屋根が傾いていたりと、想定していた以上にボロボロで、最初はどうなることやらと頭を抱えていましたね(笑)」

▲ 一級建築事務所SPACESPACEの(右)香川貴範さんと(左)岸上純子さん

改修から完成までに要した時間は、約2年半。近隣の人が、工事している様子を見て、お茶を持ってきてくれたりすることも多かったそう。知らず知らずのうちに顔見知りになり、家が完成していざ引っ越す時には、すっかり近所の人と打ち解けていたのだそう。

そのほかにも、建築家ならでは発想で、愉快な仕掛けを用意し、商店街の人とコミュニケーションを育んでいきました。

▲ 改修する前の様子。
▲ 改修中の様子。仮囲いに仕掛けを用意することで、交流の接点に。
▲ 仮囲いに設けたのぞき穴からは、工事中の様子が覗ける。

「工事中には仮囲いをするのですが、仮囲いに幾つも穴を開けて、通りからのぞけるようにしていました。通学中の子どもたちが覗いて、“前より全然進んでないやん!”と指摘されることもありましたね。他にも、工事の進捗具合を撮影して、壁面ギャラリーにしてみたり、長屋に残されていた古い建具を、譲り渡すためのイベントも行いました。古い長屋もこんな風に生まれ変わるんだ!と、多くの人に知ってもらうきっかけになりました。」


店舗デザインと住宅リノベーションの要素をミックス!

1階が事務所、2階が住まいという間取りには、建築のさまざまな要素が組み合わされています。

▲ 1階の事務所兼ショールーム。

「1階は事務所・ショールームも兼ねていて、店舗デザインを行う際の考え方で作っています。例えば、商店街の通りに沿った窓は、お店のショーウィンドウのイメージ。窓際の棚にはフライヤーが置けようにしたり、すべての柱に異なるインテリアデザインを施しています。全面ガラス張りで、商店街の外から覗けるようにしたことで、オープンな印象で親近感も持ってもらいやすいです。」

▲ 商店街の通りから、中で働く様子が見ることができる。
▲ 建築用の床材がパズルのようにはめ込まれている。全て取り外すことが可能。
▲ 柱に埋め込まれた時計。柱一つ一つに異なったデザインがあしらわれている。
▲ 白い壁面は、ホワイトボード。プロジェクターで映像を映すこともできる。
▲ 鏡面パネルを活用して、太陽の光を採光している。

「2階は、住宅リノベーションの考え方を生かしています。閉塞感を減らし、なるべくスペースを広く使うために、仕切りのないワンフロアにしています。また、長屋に多いのが、隣との音の問題。そこで、隣と接する両サイド壁に収納スペースを配置することで、騒音の問題を解消しています。」

▲ 2階の居住スペース。
▲ 脱衣所スペースはカーテンで仕切る。空間を広く使う工夫だ。
▲ 天井まで続く棚。梁と高さを最大限に生かした。
▲ キッチンの上下には、広々とした収納スペースを用意。

あちこちに楽しい仕掛けがたくさん!建物の元々持っている要素を生かしながら、デメリットすらひとつのオリジナリティに変えてしまう力が、リノベーションにはあると感じます。


職住一体というより、職住遊一体

中津商店街の商栄会を立て直し、町の人と共にイベントを立ち上げたり、商店街の活性化に向けての動きを行っているSPACESPACEのお二人。商店街で暮らすことに多くの効能を感じているそうです。

「商店街の特徴は、隣の家と隣接していて、かつ、お店であることで1階に人がいるところです。顔を合わせる機会が多いので、自然と挨拶が生まれ、コミュニケーションが取りやすい環境です。また、老若男女、多様な職種の人と関わる機会があることは、子育てにもいいと感じています。小さいうちに多世代の人と接することは、大きな学びです。」

▲ 毎月第2土曜に開催される、中津商店街のツキイチ屋台。屋台ではドリンク販売のみで、つまみは商店街内のお店で調達するシステム。
▲ 2019年夏に地域で開催された「中津ぼんぼり祭り」。商店街の商店や近隣の飲食店や企業などが約15団体が参加した。

他世代が暮らす商店街のある町で、古い建物を生かしたリノベーション。現在、商店街の中に、空き家活用の相談ができるサロンの計画も進んでいるそうです。
「意欲はあっても、資金的な問題から、長屋のリノベーションのハードルはまだ高いのが現実です。建物を購入する前の最初の段階から、一緒に作りあげる手助けができたらと考えています。職住一体という言葉がありますが、私たちの場合は、職住遊一体。町で行うイベントや催し、人との関わり合い全てが、一つの遊び場みたいなものです。」

古い建物をリノベーションして、商店街で暮らすということ。仕事と生活、そして地域コミュニティや遊びが、緩やかにつながり合うこと自体が、町で暮らす大きな魅力といえそうです。


YouTubeでもご覧いただけます。

最後に

階段型の靴箱や隠し収納スペースなど、家の中の各所に遊び心のある仕掛けを見つけました。家の中に楽しめる場所をつくるなど、もっと自由に暮らしを想像していいんですね。そして、商店街の地域コミュニティも魅力的で、暮らしにはさまざまな選択肢があるんだなと感じました。今後は、町そのものが持つ雰囲気や文化を汲みながら、今の生活に合わせた家づくりも大切になっていきそうです。

取材協力

SPACESPACE
商店街の中にある、まちに溶け込む建築事務所

一級建築士事務所。香川貴範+岸上純子による関西で活動する建築家・設計事務所。集合住宅や一戸建て、店舗や新築リノベーションまで様々な分野で活躍している。大阪・中津商店街内に建てられた、自宅兼事務所(SPACESPACE HOUSE)が、地域商店街の活性化の拠点として近年注目を集めている。

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