公開日2025.10.29
「好きなもの」と暮らす。“アウトドア”の心地よさを感じる部屋

屋外で感じるあの心地よさを、暮らしの動線や手に触れる素材の中に落とし込む——ここは、あなたの“好き”が静かに根づく場所です。
今回のテーマは、山登りや自然観察が好きな施主が実践した「アウトドアを感じる部屋」。木・石・レザー・アイアン・植物が調和し、都市部のマンションにいながらも“自然のそば”にいるような空気を生み出します。
キーワードは「エクレクティック」。好きなものを自分の感覚で組み合わせ、素材や色のトーンを整えながら統一感をつくるスタイルです。その考え方と実践のヒントを、事例とともにご紹介します。
自然を感じる空間を、自分らしくデザインするには?
教えていただいたのは
マンションリフォームマネージャー/インテリアコーディネーター 大西 美智子さん
「制約さえもデザインになる!」をモットーに、お客様と空間の魅力を最大限に引き出す空間作りを行なっています。実績は、リフォーム現場 2,500 件以上、家具コーディネート 500 件以上に達しています。最近は、エクレクティックなインテリアを積極的に提案中。
「エクレクティック」とは何か?
エクレクティック(eclectic)とは、「折衷主義」を意味する言葉です。モダン×ヴィンテージ、北欧×和風、ホテルライク×インダストリアルなど、一見相反する要素を、自分の感覚で選び取り、調和させるスタイルのことを指します。
エクレクティック・スタイルの2つのポイント
1.対照的な要素で深みを出す
- 温かい木と無機質なアイアン、柔らかなファブリックと重厚なレザーなど、質感のコントラストを意識したり、古いものと新しいものを組み合わせたりして設計すると、空間に奥行きが生まれます。
2.自分のフィルターで“最良”を選ぶ
- 何でも足すのではなく、心から好きなものだけを選ぶことが前提です。選び抜かれた一点があるだけで、部屋全体の空気が変わります。
エクレクティックとは、自分の感性を信じて選び抜くスタイル。ブランドでも流行でもなく、「自分が心地よいと感じるもの」を軸に、異なる価値をひとつの空間に共存させること。それが、世界に一つだけの部屋づくりの始まりです。
(事例紹介)せめて家では趣味に囲まれて、リラックスしたい…
ご相談
今回の施主は30代後半の男性で、登山・写真・自転車が趣味。仕事は肉体的にハードなため、「家では徹底的にリラックスしたい」というオーダーでした。購入物件はリフォーム済み中古マンションで、壁掛けテレビの設置も決まっていました。当初、テイストは「ホテルライク風」か「インダストリアル風」の2択で迷っていらっしゃいました。
「エクレクティック」を取り入れた解決アイデア
そんなご相談内容に、大西さんは自然素材を軸に、“山の気配”を感じるプランをご提案。木・石・植物で空間を包み込みながら、黒アイアンやレザーをアクセントに加えて引き締めます。石調の壁や無垢の天板、レザーとファブリックの組み合わせ、そして葉のしなやかなグリーン——どれも外の空気を感じさせる要素ですが、やりすぎると居心地を損ねてしまいます。だからこそ、自然の質感を取り入れつつも、暮らしやすさを優先するバランスが大切。
テーマパーク的な演出ではなく、素材の手触りや光の色温度といった日常のディテールで自然とつながる。そんな“山の気配を感じる暮らし”を目指します。
テイストは「ホテルライク」と「インダストリアル」をほどよくミックスし、落ち着きと心地よさが両立するアウトドアスタイルに仕上げました。
そのインテリアのポイントを部屋別に見ていきましょう。
“真似したい” アウトドアを感じるインテリアポイント10選
書斎(趣味の部屋)
1、ショップ風な趣味部屋に!
- プライベートルームは、好きで溢れた空間に。棚は“準備の動線”に沿って配置します。壁面に棚を設け、ギアを“見せる収納”で陳列します。机上にはお気に入りの写真を飾り、いつでも世界観に没入できます。
2.グルーピングが見映えと管理を両立
- 飾り棚は、「テーマ」「カテゴリ」「素材」など共通点でまとめ、コーナー化します。ジャンルごとに分けることでものが多くてもすっきりした印象に。混ぜすぎない勇気を持ちます。所有物が多い場合は、季節ごとに入れ替えることで楽しみに変えて。
リビング
3.レザー×ファブリックの温冷バランス
- ソファに柔らかな布、クッションにレザーを選んで、素材の“温度差”でメリハリを作ります。革の厚みや布の素朴さは、アウトドアギアと同じ“素材の手強さ”や“使い込む楽しさ”を室内で味わえます。
4.石の壁面=山のテクスチャ
- テレビ対面にエコカラット(石調)を施工して、岩肌の起伏や陰影を室内に再現。やわらかな陰影で視線を留め、映像を見ない時間も壁自体が風景になります。
5.アウトドア風フォールディングチェア
- “余白の席”として1脚だけ置きます。インテリア化したギアが遊び心を演出します。まるで、ベランダや窓辺で外気を感じる小さなデイキャンプ!
6.“自分ごと”を混ぜる写真・アート
- 既製のアートの中に、施主が撮影した写真が混ぜられています。サイズやフレーム色を揃えて統一感を出します。登山や旅先で撮った山景・湖面・稜線の写真を飾ることで、外の記憶を部屋にリレーできます。
7.スレンダー幹の中型グリーン
- LDKに圧迫感を出さないよう、幹が細く葉がしなやかな樹種(例:パキラ)を選定します。葉形でテイストは変わります(ヤシ=リゾート、丸葉=優しい印象)。風にそよぐ葉姿や影の揺らぎが室内に“外の時間”を運び、視覚的な涼感を作ります。
8.照明を一日に合わせて変化させる
- 朝焼け〜夕暮れの色温度を取り入れることで、外の一日のリズムを室内に。夕方以降は電球色に切り替えます。体内リズムに寄りそう光で、リラックスタイムに誘います。
ダイニング
9.無垢感のある木製とアイアンの組み合わせ
- 天板に本物の木を使います。手触りや経年変化が“愛着”を育てます。脚は黒アイアンという異素材ミックス。キャンプのテーブルや丸太ベンチのように、屋外での“触れる自然”を連想させます。
廊下
10.浅い奥行きは小物の特等席
- 小物を“見せる棚”に。キャラクターやアートなど施主の好きなものもそれぞれジャンル別に配置しました。背景クロスに色を足すことで、フィギュアや本が引き立ちます。
「エクレクティック」のプロに聞く!スタイリングの極意
エクレクティックな空間づくりを成功させるために欠かせないのが、「何をしたい部屋なのか」という目的を最初に決めることです。
リラックスするのか、集中するのか、人と過ごすのか——その部屋の役割を明確にしておくと、光の取り入れ方や素材の選び方、家具の配置といった判断が自然とぶれなくなります。目的がはっきりすれば、部屋の中の“軸”が定まり、そこから必要な要素が見えてくるのです。
また、自分の「好き」を知ることも重要なプロセスです。雑誌やSNSで気になった写真を直感で保存し、数日後に見返して「残したい」と思うものだけを絞り込んでいく。
この繰り返しで、自分の好みの傾向が見えてきます。家づくりの段階では、それらの画像をリストアップして、色や素材の共通点にタグをつけると、選択基準がはっきりし、失敗しにくくなります。
「好き」の基準は、誰でもなく、あなたの呼吸
あなたが部屋でしたいことは何でしょうか。深く眠りたいですか。仲間と語りたいですか。ひとりで没頭したいですか。エクレクティックは、ルールより自分の気分に忠実であることです。好きなものを、好きだと言える強さが、部屋をいちばん心地良くしてくれるのかもしれません。今日から、あなたの“好き”を始めてみませんか。
協力アドバイザー
マンションリフォームマネージャー/インテリアコーディネーター
大西美智子
「制約さえもデザインになる!」をモットーに、お客様と空間の魅力を最大限に引き出す空間作りを行なっています。実績は、リフォーム現場 2500 件以上、家具コーディネート 500件以上に達しています。最近は、エクレクティックなインテリアを積極的に提案中。
活動内容:個人様宅、商空間のインテリアコーディネート、テレビ番組出演、講師、webコラム執筆
筆者
ライター
小倉ちあき
企業内での広報部経験を経て、現在フリーランスのライター・インタビュアー。地域・文化・ものづくりの領域で主に活動し、今を捉えている。ジャンルの境界を越えて、有機的につなぎあわせる編集術を日々模索する。





