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インテリア

公開日2026.03.06

『セカイホテル 大阪布施』に学ぶ、柔らかなインダストリアル

今回、部屋づくりのお手本に選んだのは、大阪の難波から近鉄電車で約10分、東大阪市近鉄布施駅前からのびる商店街の中に位置する「セカイホテル 大阪布施」。
商店街に点在する空き家を客室にリノベーションしたこちらは、町全体を大きなホテルと見立てたもの。宿泊客は食堂として商店街の喫茶店や肉屋のコロッケを食べ歩き、夜はフロントで木桶をレンタルし銭湯へ行く昔懐かしい体験ができます。

客室のデザインは、東大阪に集まる町工場にインスパイアされた「インダストリアルモダン」。インダストリアルは武骨で男性的なイメージのあるテイストですが、絶妙なバランス感覚で、柔らかく日常に溶け込む雰囲気が構築されたお部屋も。

実際にホテルにお伺いし、その空間づくりのヒントを建築家の原一生さんと共に探ってきました。

ライター

米田 ゆきほ

「セカイホテル 大阪布施」宿泊者の声を設計に反映し、拡大中

「セカイホテル 大阪布施」の設計から運営まで行うのは、大阪市北区に拠点を置き、独創的なリノベ―ションを展開するクジラ株式会社。

▲ ホテルのフロント。元々の看板そのままで、商店街に馴染んでいます。

▲ フロント。写真提供:クジラ株式会社

巨大な建物はなく、商店街に点在する空き家を少しずつリノベーションし、現在は10棟まで拡大。
運営もクジラ株式会社メンバーが行うので、宿泊客の声を反映させながら、設計や居心地の調整を行えるのが魅力とのこと。

近鉄大阪線・奈良線「布施駅」から続く、南北にのびる商店街。青果店や精肉店、喫茶店など、活気のある通りです。観光客で賑わうというよりも、地元の人々の生活を支える場所として大事にされています。

案内してくださったのはデザイナーの柳川映子さんと、プロジェクトマネージャーの北川茉莉さん。

浴場や食堂は街の銭湯とお店が担う、地元に浸る旅

チェックインすると、首から下げられるパスポートをもらい出発。商店街を歩きながら、宿泊する部屋まで散歩します。受付で受け取る「SEKAI PASS」には、美味しいご馳走や、おすすめのお店の情報がぎっしりで、探検みたいでワクワク。ホテルに食堂や大浴場は無く、街の銭湯とお肉屋さんや喫茶店が、本来ホテルに備わっている機能を担います。

▲ 写真提供:クジラ株式会社

商店街のお店に入ると、パスポートを見ただけで「セカイホテルの人やな!」と声をかけられ、何だか常連になった気分。短い滞在でも、大阪ならではのコミュニケーションが楽しめます。観光地を巡る旅とは一味違う、土地の暮らしに紛れ込む楽しさを発見!

商店街を歩いていると自転車に乗った地元の人に挨拶される北川さん。
「宿泊棟が点在しているので、掃除道具を台車に乗せて移動してるんです。商店街の方もみなさん仲良くしてくださるんですよ」

バリエーションが楽しめる客室デザイン

▲ No.9の客室

商店街に在する客室のデザインは、東大阪に集まる町工場にインスパイアされた「インダストリアルモダン」で統一。「インダストリアルモダン」といえば武骨で男性的なイメージのあるテイストですが、柔らかくホッとする雰囲気から無機質でクールなお部屋まで様々。

「セカイホテルの持つブランドイメージや、商店街の空気感から、インダストリアルの表現を再構築し、無骨さの中に親しみを感じられるデザインへと落とし込みました」(柳川さん)

また、広さも2段ベッドがコンパクトに収まったドミトリルームから、6名がのびのび泊まれるデラックスルームまであります。予約のタイミングで6つのお部屋タイプを選択し、事前に旅の目的などをカウンセリングし、小さいお子さんには段差が少なく安全なお部屋など、最適な部屋をチョイスしていただけることもあるそうです。

今回は、インダストリアルモダンでデザインされた2つの部屋(No.9とNo.5)を、建築家の原さんと共にご紹介します。

株式会社PERMANENT 代表 原一生さん

「セカイホテルは新しいホテルのあり方を、商店街という場所を舞台に行なっていましたが、その世界観が部屋の内装にも生かされています。外にある素材感(外装材)を中まで活用することで、商店街にいるワクワク感が室内にも溢れている印象です」

「セカイホテル 大阪布施」の客室から学ぶ、柔らかなインダストアル

▲ 写真提供:クジラ株式会社

No.9の客室は、淡いグリーンで統一された「柔らかいインダストリアル」。
壁に使われているのは、工事現場を囲む鋼板。壁やスチールメッシュは、東大阪らしい工場の床や作業着に使われている“安全色”のグリーンから着想を得たもの。ノスタルジーと安心感を与える絶妙な色味は、職人さんと試行錯誤を重ね調色されたものだそう。

「目を凝らして見ていただくと茶色い刷毛目が見つかるはず。エイジング加工で独特の世界観と深みを追求しました」(柳川さん)

意味を持つ、グリーンのアクセントカラーで細部まで統一

▲ 写真提供:クジラ株式会社

▲ タイルの目地もグリーン。 写真提供:クジラ株式会社

淡いグリーンのカラーがグレーや素材本来の色を基調にした空間に生え、メリハリを生み出します。自分のルーツや落ち着く風景を象徴する色をアクセントカラーに選ぶと、物語が生まれ、更に愛着が湧きそうですね。

柔らかな光と曲線で落ち着く空間に

天井は照明を隠すように透明の波板が設置されています。透過した光は柔らかで、どこまでも空が広がっているような気分に。「内装に使わないものを使用することで、東大阪の空気感を表現しつつ、誰でも落ち着ける空間を目指しました」(柳川さん)

曲線を取り入れることで、柔らかな雰囲気が演出されています。

▲ 写真提供:クジラ株式会社

工場現場で使用される工業製品も、家具選びの選択肢に

収納や、ベッドエリアの段差に使用されているのは、工事現場で使われるボックスや、フォークリフト用のパレット。インダストリアルらしいアイテムですが、色合いのチョイスが絶妙。機能的で耐久性もあり、お値段もお手頃だそう。

▲ 倉庫などでフォークリフトでの荷物運搬に使われるパレットが、段差を作るために活用されています。

インテリアショップだけでなく、工業製品を扱うECサイトや、ホームセンターにも視野を広げると、より多くの選択肢から自分にピッタリのものが見つかりそうです。

続いてNo.5のお部屋を紹介。

No.5の客室は、長屋×インダストリアル

▲ 写真提供:クジラ株式会社

町屋のように奥行のある、商店街の長屋2階をリノベーションしたこちらのお部屋。

長屋という建物がもともと持つ、構造の素直さやラフな質感。この空間では、その魅力を消すのではなく、あえて無骨な要素を随所に取り入れることで、ホテルライクな高級感へと昇華させています。

▲ 部屋をのぼって2階へ。1階は別の入口から入る、別の部屋になっています。写真提供:クジラ株式会社

マットな質感の金属パーツや、直線的で装飾を抑えた照明、木肌を活かしたラフな仕上げ。こうした少し緊張感のある素材が入ることで、カーテンのやわらかさや光の陰影がより引き立ち、空間全体にメリハリが生まれています。

「すべてをきれいに整えすぎないことも大切です。無骨さがあるからこそ、空間に奥行きと“大人っぽさ”が演出できます」(原さん)。

部屋には商店街を一望できる腰高窓が。でもカーテンはあえて窓幅ではなく、壁一面を覆うサイズを採用。壁面を分断せずに包み込むことで、空間全体がすっきりとまとまり、ホテルライクな上質さが生まれます。
“カーテンは窓のサイズに合わせるもの”という定番を一度手放すことで、空間の見え方は大きく変わります。

「レースやサテンなど、光沢のある素材を選ぶことで、上質な印象になります」(原さん)

▲ 写真提供:クジラ株式会社

“長屋らしさ”を残しながら、素材のコントラストでテイストを整えていく。そのバランス感覚が、この空間を上質に見せているポイントです。

まとめ:用途の枠組みを飛び越えるアイデアで、既存を生かす個性的な空間

“広くて機能が多い家が豊か”という価値観とは全く違うスケールで快適さを追求する「セカイホテル 大阪布施」。お部屋にはテレビも設置されていないので、自然と対話が生まれたり、気づけば窓から商店街を行きかう人を眺めていたり。地域の生活を見つめ語り合うことで、かけがえのない思い出になりそうです。

居心地の良い空間に目を凝らすと倉庫や工場で使われる道具をあちこちで発見し、「こんな使い方もできるのか!」と、新たな発見の連続だった「セカイホテル 大阪布施」。空間づくりには「柔軟な発想」と「視点の変化」が必要不可欠だと学びました。

取材協力

SEKAI HOTEL Deep Osaka Experience – セカイホテル大阪布施

リノベーション事業を中心に社会課題解決を目指すクジラ株式会社が「日常(Ordinary)」の価値化をコンセプトに設計運営。商店街の既存機能をホテルの一部として使うまちごとホテル。飾らない街の暮らしを体験できるとともに、地域活性化や空き家問題の解決も目指しています。

協力アドバイザー

株式会社PERMANENT
原 一生さん

1985年生まれ。京都市立芸術大学大学院修了後、SUPPOSE DESIGN OFFICE勤務を経て株式会社PERMANENTを同代表 竹内雅貴と共に設立。
型にとらわれず、「そこにあるべき姿」をコンセプトに製作を行う。現在は建築設計、インテリアデザイン設計などを行いながら大阪芸術大学短期大学部、モード学園にて非常勤講師としても活動。

ライター

ライター

米田 ゆきほ

WEBメディアや地元新聞社に年間250本以上出稿するフリーランスのライター。溜まった原稿と最低限の荷物を持ち旅に出るのが何よりの楽しみ。私生活ではマンションの住み替えやフルリノベの経験もあり、快適な暮らしを追求中。
好きな建物はケミプロ化成先端科学技術支援センター。「生活の豊かさとは一体何なのか」を知るために仕事と旅を続けています。

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