閉じる

インテリア

公開日2025.12.15

ショップの魅せ方に学ぶ、「吊る」空間づくりのコツ

空間づくりというと、棚に並べたり、壁に貼ったりと、どうしても“床”や“壁”を基点に考えがちです。でももうひとつの選択肢、“吊る”を取り入れてみると、日常のものも新しい表情を見せてくれます。

ショップやギャラリーに足を踏み入れた瞬間、「なんかスッキリしてる!」と感じることはありませんか?ショップやギャラリー空間づくりの裏側には、実はこの「吊る」テクニックが隠されているんです。

ライター

小倉ちあき

荒川技研工業に聞く、“吊る”という発想

それでは早速、プロが実践する吊る演出の魅力と、暮らしの中で真似できるアイデアを見つけていきましょう。
今回は、ピクチャーレールやワイヤーハンギングシステムの専門メーカーである荒川技研工業株式会社の営業部マネージャー・荒川真さんに、ショップの「吊る」テクニックと、暮らしに取り入れるヒントを伺います。

教えていただいたのは

マーケティング&レベニュー キャプテン藤山さん

荒川技研工業株式会社 営業部マネージャー
荒川 真さん

「天井や壁からモノを吊るすことで、視線はふっと上に抜け、足もとがすっきりと整います。商業施設などではそういう時に、ワイヤーがよく使われます」と荒川さん。

荒川技研工業株式会社は、1975年に世界で初めて、金具に差し込むだけで任意の位置で固定・調整できるワイヤー「ARAKAWAGRIP(アラカワグリップ)」を開発した専門メーカーです。
アラカワグリップは、ワイヤーを使って位置を簡単に調節できる画期的なシステム。止め金具とワイヤーがセットになっていて、ワイヤーを押し込むだけで固定でき、ピンを押しながらワンタッチで自由に位置を変えられます。

ピクチャーレールと組み合わせて使うワイヤータイプもあります。別途ピクチャーレール本体とレール用フックを用意するのがおすすめ。またピクチャーレールがなくても、ヒートン金具などワイヤーのループを引っ掛けられる場所が壁面にあれば設置できます。

▲ 左:ARAKAWAGRIP(アラカワグリップ)、右:ピクチャーレールと組み合わせて使うワイヤータイプのもの

美術館やギャラリー、店舗ディスプレイ、住宅の壁面など「吊る」「支える」「魅せる」ためのワイヤーシステムとして世界的に評価され、建築・アート・ショップ空間のスタンダードとして広く使われています。

▲ 壁にそのまま取り付ける「ピクチャーレール」とアラカワグリップで取り付けた事例

▲ 天井から床に張る「ワイヤーシステム」とアラカワグリップで取り付けた事例

▲ 壁から壁に張る「ワイヤーレール」とアラカワグリップで取り付けた事例

「床に什器を置くのではなく、上から吊ることで、通路が広く感じられたり、商品そのものに視線が集まったりするんです。『どう飾るか』を少し変えるだけで、空間の印象は大きく変わりますよ」と荒川さん。
では、実際にショップではどのように使われているか見ていきましょう。

ショップに学ぶ、吊るして“軽やかに飾る”テクニック

重いものを「軽く」見せる

荒川さんがまず見せてくれたのは、靴屋の事例でした。スニーカーをワイヤーで吊るすと、商品がふわりと浮かび上がり、実際の重さよりも“軽い印象”になります。 床にどっしり並べるのではなく、宙に持ち上げることで、視線の抜けとリズムが生まれるのです。

バッグも、ワイヤーで吊るすことで、素材感と軽やかさが同時に伝わるディスプレイに。高級時計店では、時計を載せた什器そのものを吊るし、重厚なアイテムを敢えて宙に浮かせることで、ラグジュアリーさと遊び心を同時に演出していました。

「重さをそのまま見せるのではなく、吊ることで印象を軽くする」という共通した考え方が通っています。

小さなものを、集合体にして「別の形」に見せる

印象的だったのが、「集合体」として見せるディスプレイ。靴下やTシャツのように、一つだけでは存在感が出にくいアイテムも、ワイヤーでたくさん吊り下げて群像として見せると、ひとつの大きな作品のようなインスタレーションに変わります。

▲ ©ナカサ アンド パートナーズ

単調に見えがちな商品陳列も、吊り方ひとつで「商品」から「空間を構成する素材」へと役割が変わっていく。平面だったものが立体的に立ち上がり、360度どの角度からでも楽しめる展示になる好例です。

光をアレンジする照明デザイン

照明と組み合わせた事例も、印象深いものばかりでした。
天井に大きな照明を設置し、その全体をワイヤーで吊り下げることで、構造を支えるパイプ類を極力見せないデザインにしています。視界に大きな柱やパイプが入らないぶん、光と商品に視線が集中し、売り場全体が軽やかに感じられます。

ワイヤーでしっかり支えながら、見た目は繊細で軽やかな印象に仕上げた事例もあります。たとえば、こちらは複数の有機ELパネルと角型シェードが、浮遊するようなシャンデリア。数本のワイヤーとそれをしっかりとホールドするグリップによって支えられ、高さが調整されています。

▲ ©長根寛

デザイナーにとってワイヤーは、空間の中から“構造物の存在感”を限りなく消すための道具。パイプや脚が視界を遮らないぶん、商品や作品にまっすぐ視線を届けることができます。

暮らしに取り入れる、“吊る”デザインのコツ

ここからは、「これでもかというくらいワイヤーを使った」という荒川さんのご実家での実例を交えながら、住まいでマネしやすい「吊る」アイデアを見つけていきましょう。DIYから推し活、テキスタイル展示まで、暮らしの幅がぐっと広がります!

1|キッチンは“吊る棚”が最強

住宅でいちばん実用的なのが、棚を吊るすというアイデアでしょう。収納不足を感じやすいキッチンまわりは、まさに吊る収納と相性のよい場所。天井近くや壁の上部など、手は届くけれど使いきれていなかったスペースを、「吊る棚」として生かすことで、収納量を増やしながらも圧迫感の少ないキッチンをつくることができます。

▲ ©木暮伸也

ピクチャーレールから棚板を吊るせば、電子レンジの上に収納棚を設けてスペースを有効活用することも可能です。床やカウンターに脚を立てなくて済むので、掃除がしやすく、足もとがすっきり見えるのもメリット。いらなくなったら外せるフレキシブルさも、「吊る棚」ならではの魅力です。

▲ ©木暮伸也

とくに収納不足を感じやすいキッチンまわりには、相性抜群の使い方。“収納不足×圧迫感”を同時に解消できます。

2|廊下や階段の壁を「ギャラリー」にする

廊下や階段の踊り場は、家具や棚を置きにくく、活用しづらい場所です。そこにレールを一本通して、絵や写真、ポスターを吊るすだけで、通路がギャラリー空間へと変わります。 たとえば廊下の天井近くにピクチャーレールをつけ、家族写真を季節ごとに掛け替えれば、「通り過ぎる場所」が「思い出を眺める場所」になるでしょう。階段の途中にお気に入りのアートを吊るしておけば、上り下りしながら作品を眺める楽しみも生まれます。

絵やポスターを“視線の高さ”に合わせて吊るすことで、「どこに目線を誘導するか」を細かくコントロールできるのもワイヤーならでは。レールさえ用意してしまえば、グリップで吊るすだけなので、タイニーハウスのような小さな住まいでも邪魔にならず、床を塞がないぶん安全性とデザイン性を両立できます。モノを置きにくい場所ほど、「吊る」魅せ方が生きてきます。

3|推し活棚や、小さな神棚を小さく設ける

もう少し楽しみ方を広げるなら、“推し活棚”のような小さな祭壇スペースをつくってみるのもおすすめです。好きなアーティストのグッズや、大切なフィギュア、思い出の品や写真、賞状など、「特別なもの」だけをそっと並べる棚を、ピクチャーレールから吊るしてみます。普段の収納とは別に「ここは大事なものを置く場所」と決めることで、自然とそこに視線が集まり、毎日手を合わせたくなるような小さな聖域が生まれます。

▲ ©木暮伸也

置くだけではなく“吊る”ことで、空間との距離が少しだけ変わり、「大事なもの」としての存在感もいっそう高まります。
観葉植物や盆栽、テキスタイルを吊るしても良さそうです。窓際に植物を並べて吊るせば、日差しに透ける葉と影のコントラストが生まれ、時間帯によって表情を変える“生きた立体感”が生まれます。

▲ ©NOSIGNER

4|クローゼットや寝室など、やわらかく「隠す」

「完全に隠す」よりも「雰囲気をやわらかく切り替える」。クローゼットの前や寝室まわりに、パネルや障子を吊るして、ゆるやかに視線を遮る工夫もできます。クローゼットの中身を直接見せないようにしたり、休憩スペースの手前にテキスタイルを屏風のように吊るして、奥行きのある仕切りをつくったりと、現代の住まいに“屏風的な考え方”を持ち込んでいるイメージです。

▲ テレビボードの後ろは、収納スペース。©木暮伸也

▲ 障子を上から吊ることで、空間を区切っている。©木暮伸也

布やタペストリーを季節ごとに掛け替えれば、簡単な模様替えとしても楽しめます。扉や壁をつくるほどではないけれど、空間に区切りがほしいとき、視線や気配をほどよく遮ってくれる「ゆるい仕切り」は、ワンルームや仕切りの少ない間取りと相性のよいアイデアです。

洗面台リフォーム

少し視点を窓側に向けると、ワイヤーを活用すれば、屋外からの日差しを柔らかく遮るベランダのグリーンカーテンもできます。空気の流れをさりげなくコントロールする、心地よい境界の誕生です。

ワイヤーを取り付ける流れを知っておこう

安全性・耐荷重について

例えば、ピクチャーレールを取り付けた際の耐荷重は、最大300kgまで対応する製品もあり、耐震面では揺れることはあっても落ちにくい仕様です。
・落ちても困らないものを吊る
・下に柔らかいものを敷く
といった小さな配慮を加えることで、安全に使えるとのことでした。あわせて、地震による転倒・落下を防ぐサポートワイヤーとして、「転倒防止ワイヤー」や「落下防止ワイヤー」を取り入れる方法もあります。

▲ ピクチャーレールとアラカワグリップ

ピクチャーレール取り付けの流れ

  • 【1】「取り付けたい位置に下地があるか、補強が必要か」を工務店やハウスメーカー、管理会社に確認
  • 【2】 レールを付けたあと、棚板やフックを用意(棚板は、ホームセンターで購入し、カットしてもらう人も多い)

すでにピクチャーレールが付いている家なら、ワイヤー金具や棚板を用意するだけで、吊る収納やディスプレイの幅がぐっと広がります。

“吊る”で、暮らしがもっと軽くなる

お話を伺って感じたのは、「吊る」という行為は収納以上の意味を持ち、空間のあり方そのものを変える手法だということ。モノの見え方が変わるだけでなく、視線の流れが整い、部屋の密度や重心がふわりと軽くなるのです。廊下や階段の踊り場のように、使い道が限られていた場所も、レールを一本通すだけで“眺める場所”へと表情を変えます。
部屋づくりに迷ったときは、床や壁ではなく「天井をひとつの面としてどう生かすか」を考えてみると、新しい選択肢が見えてきます。吊ることで生まれる余白や軽やかさが、暮らしのリズムをそっと変えてくれるはずです。

※全ての挿入写真提供:荒川技研工業株式会社

取材協力

荒川技研工業株式会社

ワイヤーハンギングシステムの専門メーカー。1975年、世界で初めてワイヤーを金具に差し込むだけで任意の位置で固定できる「ARAKAWAGRIP(アラカワグリップ)」を開発。美術館・ギャラリー向けのピクチャーレールをはじめ、店舗ディスプレイ、住宅の壁面装飾、ワイヤー手すり、転倒防止ワイヤーなど、建築・アート・インテリアの幅広い領域で採用されている。企業ギャラリーは、東京・表参道、大阪・南船場、イタリア・ミラノにあり、不定期でさまざまな展示会も開催。

©ToLoLo studio

ライター

ライター

小倉ちあき

企業内での広報部経験を経て、現在フリーランスのライター・インタビュアー。地域・文化・ものづくりの領域で主に活動し、今を捉えている。

この記事をシェアする

おうちのネット回線を
eo光でもっと快適に

アドバイザーに相談

自分にあったプランを選ぶ

eoの取り組み

Category

メールマガジン登録
PAGETOP