公開日2025.12.25
素材で選ぶインテリア。「タイル」がもたらす上質で愛着ある空間
床や壁といった内装の素材選びによって、空間の印象はガラリと変わります。クロスや漆喰、珪藻土、合板などで武骨な雰囲気に仕上げるのもブームです。それら仕上げ材の中でも「タイル」は、ツヤツヤで宝石を埋め込んだような輝きを放つものから、土や石の風合いをそのまま写し取ったような素材感のものまで、種類は多彩。空間の“背景”に奥行きを与えてくれます。
今回は、創業107年の歴史を持ち、建築やインテリア業界のプロに愛される、株式会社平田タイルの大阪ショールームへ。マーケティング部部長・橋本哲徳さんに、タイルの最新トレンドや取り入れ方、デザインについて伺いました。
タイルの役割とデザインのトレンド【株式会社 平田タイル】
大阪市西区に本社を構える株式会社平田タイルは、1919年創業の建築用タイル・水まわり設備・建材の専門商社。デザインと機能性を備えた世界中のタイルを販売し、さらにオリジナル製品の開発や施工工事も行う会社です。
▲ 大阪ショールームは、平田タイル本社の1、2階フロア。2025年7月にリニューアルオープンしたばかり。写真提供:平田タイル
▲ ショールームはまるでタイル美術館!
タイルの役割の一つは、「上質な背景をつくる」こと。家具やキッチンが主役だとすると、その背景になるのがタイルです。ツヤツヤかザラザラか、立体的なものであれば陰影も日の傾きで変化します。そうした素材感や重量感を演出し、生活をより上質に彩るのがタイルの重要な役割です。
▲ 株式会社平田タイル マーケティング部部長 橋本哲徳さん
「我々の脳が、タイルをクロスなどより重いものだと判断し、壁を見た時に直感的に重量感を感じているそうです」と橋本さん。
見た目だけでなく、質量感そのものが空間の雰囲気を支えているといえそうです。
最新のタイル事情 トレンドは?
デザインの発信源であり技術的にも常に業界をリードしているイタリア。住居が大きく、プールがある個人宅も多いアメリカも大きなマーケットとなっています。一方、ユニットバスが普及している日本は、水回りでのタイルの使用は限られており、世界の中で独特な建築様式とも言えます。
トレンドカラーは、かつてのクールなグレーから、今はブラウンなど暖色系のアースカラーに変化しました。貼り方にもトレンドがあり、長いタイルを垂直に貼る「縦貼り」が世界的に流行中。ピンクやブルーなどカラー目地も登場し、タイルそのもの以外でも、施工の幅が広がっています。
▲ 写真提供:株式会社 アネストワン
海外出張も多い橋本さんによると、
「特にイタリアでは良質な石材が枯渇し始めているので、希少価値のある石材から順番にタイルに置き換わっているんですよ」とのこと。
石造りの建物や石畳が多く残るヨーロッパの街並みも、よく見れば徐々にタイルへと変化しているのかもしれません。
住まいにタイルを取り入れる、8つのアイデア
1|タイルのデザインは、貼る“面全体”で考える
タイルが持つ魅力の一つは、デザインの自由度。縦に貼るか横に貼るか、目地をずらすか揃えるか、他の素材を混ぜるか。それらの組み合わせで、デザインの強さや静かさの、絶妙なバランスを探ることができます。
下の写真が、一つの事例です。凹凸のあるタイルを一部に混ぜ、膨らみのあるタイルを1列だけ、2個飛ばしで配置することで、全体の中にほどよいリズムが生まれています。
▲ キッチン背面に心地いい重量感のある、絶妙なデザインが完成。インテリアデザイン:YLANG YLANG inc.
黒い目地でクールな雰囲気に、目地幅を狭くしてナチュラルに、など、「どのように配置して見せるか」。タイルの自由度を活かし、貼る“面全体”で考えましょう。凹凸のバランスや、色や柄を繊細に調整できるのは、他の建材にはないタイル特有の魅力です。
▲ 左:シンプルなホワイトのモザイクもヘリンボーン貼りにする事で目地自体がデザインに、右:縦貼りと横貼りを混ぜたデザイン。貼り方を変えるだけで全く違う印象に。写真提供:平田タイル
2|「目地」の幅や貼り方も含めて、デザインしてみる
海外では、とりあえず端から貼り始め、余った分を切るという単純な貼り方が多いそう。ですが、日本人は割り付けの美しさと水平・垂直を重んじる国民性。なるべく小さい切り物が入らないように計算して貼るのが、美しいとされています。
そこで際立つのが、タイルの隙間を埋める「目地」の存在。昔は汚れが溜まりやすいなど、タイルに比べ手がかかる印象がありましたが、現在はカビにくいものや、ピンクやブルーなどのカラー目地も登場。目地をあえて際立たせるような、「目地が主役になるタイル」もあるので、チャレンジしてみるのもおすすめです。
▲ イエローの目地が、ブラウンのタイルに映える、目地が主役のタイル。割り付けのバランスにもこだわりが感じられる
3|「クラフトタイル」を使えば、手作り感のある落ち着く空間に
土の風合いや職人の手仕事が感じられるクラフトタイルも、近年人気。均一な工業製品とは異なり、一枚一枚に歪みやバラつきのあるタイルは個性があり、アート作品のようで見ていて飽きません。壁一面に貼っても機械的にならず、どこか温かく、人の気配を感じる仕上がりになります。
クラフトタイルの魅力を語るうえで欠かせないのが、釉薬(ゆうやく)の存在です。釉薬とは陶器の表面にかけるうわぐすりのことで、焼成することで光沢や奥行きのある色味が生まれ、一枚ごとに表情が変わります。
「インクジェット製品に見慣れた、海外バイヤーのなかには、釉薬が濃くのった、日本の焼き物のようなタイルに感動する人も多いです」と橋本さん。
▲ 釉薬がたっぷりのった重厚感あるタイルで、落ち着く空間に。写真提供:平田タイル
4|拭けばOK!水まわりや玄関など、日常的に汚れやすい場所に
タイルの大きな魅力のひとつが、メンテナンスのしやすさです。汚れがついても、基本的には水拭きだけでOKのものも多くあります。適度なざらつきがあるものなら滑りにくく、小さな子どもや室内で過ごすペットにも安心です。水まわりや玄関など、日常的に汚れやすい場所こそ、タイルがその力を発揮します。
橋本さんも、 「タイルは生活空間で扱いやすい素材。ちなみにワンちゃんのいるお家にもおすすめです。適度なざらつきがあるものなら滑りづらく、室内で飼われるワンちゃんの足もしっかりグリップします」と話します。
▲ 左:脱衣所や風呂場もタイル貼りで、掃除もしやすく清潔、右:泥や汚れが飛びやすい手洗い場にも最適。写真提供:(左)アステックWABURO(右)平田タイル
5|洗面台の鏡の下にアクセントに!狭い範囲なら予算も安心
かつて洗面はバックヤード的な位置づけでしたが、現在は機能だけでなくデザイン性も追求する人が増えています。コロナ禍で手洗い・清潔に関する意識が高まったことも要因となり、こだわりのオーダー洗面台も増えているそうです。
タイルはクロスより施工コストが高い場合が多いですが、鏡の下の壁面など、狭い範囲ならお手頃な予算で取り入れることができます。毎日使う場所だからこそ、お気に入りの素材を使えば気持ちも上がりそうです。
橋本さんによると、「割れない限り寿命もほぼ恒久的なので、総合的に見るとコスパは良いんです」とのこと。
▲ 小スペースもタイルで彩ってみよう。写真提供:平田タイル
6|木や石の表情をそのままに、“床材をタイルに置き換える”という発想
主に床材に使われるタイルの中には、木や石にそっくりなタイルもあります。模様はインクジェットによるデジタル印刷が主流で、本物の木や石をスキャンしたデータを元に、およそ1200度で焼き上げたもの。凹凸まで精巧に再現されていて、模様のパターン数も豊富。並べても“同じ柄が続かない”自然な仕上がりになります。
見た目は木や石の雰囲気のまま、耐久性やメンテナンス性はタイルのまま。美しさと扱いやすさの両立が叶うため、床材や屋外テラスなどにも利用しやすいでしょう。
ちなみに、冬に不向きな印象のタイルですが、床暖房を入れると温かいです。フローリングに比べると暖まるのに少し時間がかかりますが、一度温まると冷めにくく暖かさも長持ちします。
▲ 段差が設けられたリビングスペース。タイルとフローリングの異なる素材で切り替え。写真提供:Royal Mosa
7|シームレスな空間を、床材のタイルで切り替えてゾーニング
高齢化や建具の変化などにより、段差の無いバリアフリーの住宅が増加しています。シームレスにつながる空間は開放感がありますが、玄関と居室、リビングとダイニングなど、役割によって最適な床材は異なります。
玄関やダイニングなど汚れやすい場所はタイルに、リビングや寝室はフローリングや絨毯に。床材を切り替えることで、使い勝手だけでなく、気持ちのスイッチも切り替えられそうです。
▲ 左:劣化が少ないタイルであれば外部や水回り、キッチンバックなど通常木材を使いにくい環境でも安心して使える。写真提供:平田タイル
8|実は難しい!?タイルDIY そのままアートパネルにも!
DIYブームにより、「誰でも気軽に貼れる!」と言われることも増えましたが、タイルをきれいに“切る”のは実は至難の業。そこで、貼る面積からタイルの大きさと目地幅を逆算し、「切る工程」をなくす設計にすれば、DIYのハードルがぐっと低くなります。小さいモザイクタイルのように、丸い形やバラバラな粒を敷き詰めて目地を入れるタイプであれば、より手軽に施工ができます。
▲ タイルを額装しアートフレームに。”貼る“のでは無く、”飾る”提案も。写真提供:平田タイル
たとえば、タイルをそのまま合板などのパネルに貼って“アート”として飾るのはいかがでしょう?額縁に入れるとより本格的。タイルのデザインをそのまま楽しむ一つのアイデアです。
まとめ:タイルを取り入れて、自分らしく愛着のある空間に
種類の多さだけでなく、目地の可能性や重量感の調整など、タイルが無限の可能性を秘めた素材であることが分かり、その魅力をあらためて再認識しました。楽しみながら快適な組み合わせを見つけていければ、きっと愛着のある空間づくりにつながるはずです。
光の当たり方での陰影の変化や手触りを確かめるには、やはり実物を見るのが一番!デザインの自由度が高い素材だからこそ、ショールームでインスピレーションを受け取り、自分らしい「上質な背景」を思い描いてみてはいかがでしょうか。
取材協力
株式会社平田タイル
1917年創業のタイル専門商社として100年以上にわたり、建築・インテリア業界の発展を支えてきた老舗企業。イタリアをはじめ、海外の良質なタイルをいち早く国内に紹介するとともに、自社オリジナル商品の開発にも力を注ぎ、高いデザイン性と機能性を兼ね備えたタイルを幅広く展開。
◾️東京・大阪・名古屋・福岡ショールーム
平日:予約不要で、自由見学可能。
土:完全予約制。ウェブサイトもしくは電話にて予約が必要。
水・日・祝祭日休館
ライター
ライター
米田ゆきほ
WEBメディアや地元新聞社に年間250本以上出稿するフリーランスのライター。溜まった原稿と最低限の荷物を持ち旅に出るのが何よりの楽しみ。私生活ではマンションの住み替えやフルリノベの経験もあり、快適な暮らしを追求中。
好きな建物はケミプロ化成先端科学技術支援センター。「生活の豊かさとは一体何なのか」を知るために仕事と旅を続けています。





