公開日2025.12.18
セルフリノベーションは、一人で完成はできない?|セルフリノベ入門Vol.2

近年注目を集めている「セルフリノベーション」。実際に始めるうえで知っておきたいこと、理想的な住まいづくりをサポートする新しい選択肢など、さまざまな情報を全3回にわたってお届けします。
前回の「セルフリノベーションは本当に安い?費用と工数の落とし穴」に続き、今回は自力では難しい工事や作業、そして頼れる相談先の存在について詳しく解説していきます。
“セルフ”と言っても…家づくりは、自力ですべて完成させるのは難しい
バールを使って解体したり、インパクトドライバーでビス打ちしたり…。作業が板に付いてくると、「最後まで自力でやれちゃいそう!」と思ってしまいそうですが、そう甘くないのが家づくり。セルフリノベでは、自力でやるにはどうしても「難しい」工事や「危険」な作業があります。
教えていただいたのは

株式会社 TSUDA CONSTRUCTION COMPANY
代表取締役 津田 直樹さん
店舗住宅のデザイン・設計・施工のほか、家具什器などの製品企画や開発なども手掛ける。工務店ならではの知識と技術を生かし、セルフリノベーションを二人三脚でサポートするサービス「教えて!工務店」を展開している。事務所下にあるDIYスペース「TCCO CRAFT FACTORY」では、レンタル工具の貸出しやワークショップを開催。
セルフリノベには、専門業者に依頼すべき作業や工事がある
家主自身での作業がNGとされるもの。ひとつめは、電気や水道、ガスなどのインフラ設備工事です。建物や環境に合わせた部品の選定、漏電や漏水、ガス漏れなどを発生させないための接合・接続作業など、専門的な知識と技術が必要になります。これらは国に認められた資格が必要となり、有資格者以外の作業は禁止されています。
ふたつめは補強工事です。床下地に補強板(コンクリートパネルなど)を設置するなど、部分的な補強作業はセルフで行うことができますが、建物全体の強度に関わるものはプロへの依頼が必須。特に耐震工事は構造計算などが必要になるため、建築士にお願いする必要があります。
また、アスベストを含む建材の調査や撤去も、資格を有する専門業者に依頼する必要があります。法律が改正された2006年以前に造られた建物は多く使われていたため、注意が必要です。
ほかにも高所での作業や、扱うのが難しい工具の使用など、大きな怪我や事故につながりやすい作業も避けておきたいところ。作業する人や建物全体の安全性に関わるものは、必ず知識や技術を有するプロにお願いするようにしましょう。
【専門業者に依頼すべき設置・撤去工事とそれに必要な資格】
- ・ガス設備:消費機器設置工事監督者など
・水道設備:給水装置工事主任技術者など
・電気設備:電気工事士
・耐震補強:建築士(一級・二級・木造建築士)
・アスベスト調査・撤去:石綿作業主任者
セルフリノベで頼りたい相談先
専門的な知識を有する工事以外でも、相談すべき相手として以下の3つが挙げられます。
材木屋
- 木材の購入先としてまず頭に浮かぶのはホームセンターですが、まちの材木屋さんから直接仕入れるという手もあります。一般的に流通しているものより割高ではあるものの、「反りにくい」「密度が高くて丈夫」など、いい条件が揃った木材を集めることができます。
足場屋(足場専門業者)
- 外壁塗装や屋根の設置など、高所作業をする際は「足場」が欠かせません。組み立ての際は、通路となる「踏板」や安全確保のための「手すり」が必要です。こうしたパーツはホームセンターなどで手に入れることもできますが、頑丈に組み立てるにはかなりの数を必要とし、コストの負担も大きいです。落下や大きな事故を未然に防ぐためにも、プロにお願いするのがベスト。国家資格を有する足場の専門業者さんに依頼しましょう。
産廃業者(産業廃棄物処理業者)
- 元々の建物に使われていた木材・床材は、再利用できるものがある一方、捨てざるを得ないものもあります。市では回収してくれない大きくて大量の廃材は、産業廃棄物処理業者(通称・産廃業者)に回収・撤去を依頼します。
紹介した専門業者は、個人的に依頼することも可能ですが、自分たちで業者さんを探し、一から関係性を築いていく必要があります。協力先として依頼をするときは、“時間的コスト”も考慮しておいたほうがよさそうです。
プロに相談しながら進めるのが、理想の住まいの近道
「どの内容をどの専門業者に頼めばいいのか」という判断や、Vol.1で紹介したセルフリノベのデメリット(余計な出費や、ゴールがみえず時間がかかりすぎることなど)も、家の作り方を知ってさえいれば解決できることがほとんど。つまり家づくりにおいては、「知識があるかどうか」がとても重要になります。
セルフリノベーションは本当に安い?費用と工数の落とし穴|セルフリノベ入門Vol.1「じゃあ、すべての作業は工務店にお願いするしかないの?」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。完成までの作業は自力で行いつつも、その指針となる知識や意見を工務店に教わることができれば、いざというときの安心材料になります。「セルフ=自力」にこだわらず、プロに相談するほうが、理想的な住まいの近道になると言えるかもしれません。
現場でプロに相談できる【リノベ相談室】
▲ 教えて!リノベ相談室
津田さん率いるTSUDA CONSTRUCTION COMPANYでは、はじめてリノベーションに挑戦する人を対象としたサービスをいくつか展開されています。
そのうちの一つである「リノベ相談室」は、60分2万円(税込)で依頼主のプランや希望に合わせたアドバイスを受けられる対話型サービス(オンライン・対面選択可)です。相談内容にほぼ制限はなく、工事に必要な「材料・道具」とその「購入場所」、工事にかかる「日数」、必要な施工の「方法」、完成までの「流れ・順序」など、1時間で教えられるだけのことを全て教えてくれるそうです。
「気づくのが搬入後だった場合、器具の購入費はもちろん、業者に持ち帰ってもらう費用や処分の費用など余分な出費が発生していたことになります。頭の中にある完成イメージをヒアリングして、それが『できるか・できないか』をその場で判断してあげるだけでも、何十万円の出費を抑える助けになる」と津田さん。
サービスの料金だけを見ると「割高では?」と感じられたかもしれませんが、結果としてお値段以上のメリットが受けられることになります。
ほかにもインパクトドライバーの使い方、水回りやドアの修理方法が学べる「おうちの修繕講座」も(有料・8,800円税込)。事務所下にあるDIYスペース「TCCO CRAFT FACTORY」で定期的に開催されています。
大工は減少傾向に…職人は「手を動かす」から「教える」時代へ
津田さんが「リノベ相談室」などのサービスを始めた背景には、「この先、工務店が施工のすべてを担う“従来のスタイル”を続けるのは難しい」という考えがあったからだそうです。高齢化や若い世代の確保の難しさから、深刻な人材不足に苦しむ建設業界。大工就業者数は、令和2年に約30万人と、20年間で半減し、建設業従業者(全体)に比べて60歳以上の比率が大きくなっています(※)。
▲ 国土交通省「大工就業者数の推移」
職人さんたちの数が減少すれば、修繕を必要とする人たちへの迅速な対応も難しくなる——。こうした問題を解決するためにも、「職人さん自身が作業するだけではなく、その技術や方法を広く伝えていくことが必要」だと津田さんは言います。プロにしかできないと思い込んでいることも、学びさえすれば自分の手でできる。「職人の技術を教える・教わる」という新しい仕組みは、建設業界の可能性をひらく大きな一歩といえそうです。
最後に
今回は、セルフリノベといっても100%自力で行うのは難しいこと、困った時に頼れる相談先がいることをお伝えしました。また、家をつくる人・その技術を教える人…という、依頼主と工務店との新しい関係性も見えてきました。最終回となる次回は、中古リノベにおける第三の選択肢、「プロと二人三脚」で行うセルフリノベについてご紹介します。ぜひお楽しみに。
戸建てのインターネットもプロにご相談を!
ライフラインとして欠かせないインターネット回線も、プロに相談しておくのがベター。家の構造によってはネットが繋がりにくくなるケースもあるため、着工前の相談がおすすめです。
取材協力
株式会社 TSUDA CONSTRUCTION COMPANY
店舗住宅のデザイン・設計・施工のほか、家具什器などの製品企画や開発なども手掛ける。工務店ならではの知識と技術を生かし、セルフリノベーションを二人三脚でサポートするサービス「教えて!工務店」を展開している。事務所下にあるDIYスペース「TCCO CRAFT FACTORY」では、レンタル工具の貸出しやワークショップを開催。
筆者
sumica編集部
自然体で心地いい時間が過ごせるおうちにしたい、そんな想いを込めて、「こんなのあったらいいな」「これは便利!」と思う暮らしのアイデアをお届けします。






