らしさのある家

公開日2022.08.30

板金工場跡をDIYで再生!生き方をショールームにした、自宅兼ショップ

板金工場跡をDIYで再生!生き方をショールームにした、自宅兼ショップ

住まいとはなにか、改めて考えたことはありますか? 自身の住まいについて振り返るきっかけになるお店があります。今回お伺いした「GASAKI BASE(ガサキベース)」は、足立さんご夫婦の自宅兼ショップ。なんと工場跡を買い取り、DIYで改修されたそう!
「この場所に来て、商品や私たちとの会話を通して、何か感じるものがあれば嬉しい」と話すお二人に、自分らしい住まいを作るヒントを伺いました。

半年かけて、生まれ変わった板金工場跡

▲ GASAKI BASEの外観。工場の外壁に使われていたトタンはそのまま活用。

旧猪名川の土手から、一本道路を挟んで現れる住宅地。住宅と住宅の合間にふいに現れる路地の奥正面に、「GASAKI BASE」の看板が見えます。「GASAKI BASE」は2022年にリニューアルオープンしたDIYパーツ、リメイク家具ショップ。1階は店舗、2階は経営する足立繁幸さんと桃子さんご夫婦のご自宅となっています。
店名は、尼崎(あまがさき)に由来。通称「アマ」と呼ばれる尼崎のことを、逆転の発想で「ガサキ」と名付けたそう。元板金工場跡をすべてDIYで改修したというのだから驚きです。

「間取りなどは、基本的に無計画。作業しながら、“ここにこれがあったらいいんじゃないか”と、想像しながら組み立てていきました」と話す足立繁幸さん。DIYに要した期間は、約半年。電気配線やガスなどの整備以外は、夫婦と有志の参加者で行われたそうです。

▲ 「GASAKI BASE」オーナーの足立繁幸さん。

1階のショップ空間は、大きく3つの用途に分かれています。DIYグッズや廃棄物・不用品をリメイクしたグッズ、手作りのオリジナル家具やセレクト食器などが陳列する「販売ブース」、個室の「DIY作業ブース」と、コーヒーなどがいただける「カフェスペース」となっています。

▲ 1階のショップ部分。掘り出す楽しみがありそう。

▲ さまざまなDIY関連グッズが並ぶ。

▲ 白い扉の向こうがDIY作業室。

▲ DIY作業室では、店内で購入した板をそのまま加工もできる。お二人もこの場所で日常的にDIYやリメイク作業を行っている。

▲ 1階のカフェ兼打ち合わせスペース。お二人のセンスが感じられる空間。

▲ 「GASAKI BASE」はカフェ併設。桃子さんが淹れてくれるコーヒーは、近隣に住む焙煎士による挽きたて豆が使われている。

幅広い木板で歩きやすい階段を登っていくと、2階に広がるのは居住スペース。職住一体の暮らしとなっています。扉を開けてまず目に入るのは、キッチンとリビングを仕切る壁と四角いキッチン窓と、手前のリビングに置かれた存在感のあるちゃぶ台。

▲ 2階。ここから足立さん夫妻の住空間。左のドアを開けてリビングへ。

▲ リビングスペース。段差が椅子代わりにもなる。料理教室や展示会など、レンタルスペースとしての貸し出しも行われている。最大15名ほど収容可能。

▲ ヘリンボーンの床もDIY。ちゃぶ台は中華料理屋で使われていたテーブルをリメイク。

▲ “料理をしている人が絵画のように華やかに見えるように”と設えられたキッチン窓。リビングに居る人との会話も弾む。

リビング兼レンタルスペースの右手奥には、トイレと洗面所・風呂場、寝室があります。

▲ 2階のトイレスペース。室内になかった水回りの配管もDIYで行った。

▲ 洗面所と収納スペース。右がお風呂場。


知らず識らずのうちに、大工である祖父の血を継いでいた

現在、「GASAKI BASE」の運営やDIY・空間設計に関するコンサルティングを行う足立繁幸さん。当時、憧れた職業はインテリアデザイナー。しかし実際に、インテリアデザインの学校で学びを進めている時、違和感を感じ始めたそう。
「表現論、色彩論なとの理論や自分の知識を、クライアントの要望にどうはめ込んでいくかということよりも、自分がやりたいのは、自由気ままな日曜大工。おしゃれな自分の部屋を作りたいという、純粋な初期衝動が湧き上がってきたんです」

▲ 人生は50年だと思って生きているという足立さん(現在42歳)。太く短く生きていた昔の人間のように、一日を大切にシンプルに生きたいと話す。

その後、ひと回り上の男性と運送業を開業。従業員も増える中で、古いものを生かすという新しい事業を作りたいと考えるようになりました。「もともと古いものが好きだったんです。父親は、庭師。祖父は大工で、茅葺き屋根を作るような木造建築を作っていました。幼い頃からその背中を見ていたはずなのに、当たり前過ぎて、本来の自分の趣向に気づくまでに時間がかかりましたね」

社内で新事業を進める中で、この事業はただの営利目的では伝えられないと感じ始めます。「古いものを生かすというマインドを、現代人のライフスタイルに根付かせたい、人生かけてやるべきことのような気がしたんです」そこで一念発起し、一旦今の仕事を辞めて、自分の責任でやろうと独立に至ります。


「GASAKI BASE」がリニューアルに至るまで

35歳の頃、結婚と同時に独立。2014年に兵庫県尼崎市で、プロデューサーとして関わり始めたのが、「傾奇者集落(かぶきものビレッジ)」でした。木材が売れず、悩んでいた材木屋と協業で生み出した場所でした。先代からの不良在庫を活用しようとするプラットホームで、住空間や暮らしにまつわるショップや飲食店などのお店が集まる形態でした。

「村を訪れる感覚で、気軽に木材に接することができれば、木材の可能性を作れるんじゃないかと考えました。その敷地内に、自分たちが構えた店が現在の前身となる『GASAKI BASE』だったんです」

▲ 2022年に現在の地にリニューアルオープンした。

2019年、材木屋の諸事情やコロナの影響を受け、「傾奇者集落(かぶきものビレッジ)」プロジェクトは、終了を迎えます。「GASAKI BASE」を畳んで、実家である島根に帰ろうかと考えていた時、リピーターやお客さんから「続けてほしい」という突き上げがあったそう。そこでクラウドファンディングを行い、多数の支援を受けて、「GASAKI BASE」は、現在の場所で再起を図ることになります。


「GASAKI BASE」の奮闘記

▲ 約450万円で購入した土地と建物。室内から外を見た風景。※写真提供:GASAKI BASE

▲ 1階部分。当初はトカゲやバッタが飛び交っており、途方に暮れたそう。※写真提供:GASAKI BASE

こうして始まった「GASAKI BASE」のリニューアル工事。元工場だったため、水場が室内に全く無い状態からのスタート。工場の外にあった手洗い場の水を室内に持ち込むという水回りの動線は、すべて自分たちで考えて工事を行ったそう。

元工場跡地をDIYする作業において、特に思い出深い工事は、雨漏りと風呂場と話します。

「雨漏りは、業者に依頼して修繕すると、数百万かかってしまうため、自分たちでなんとかしたかった。そこで実行したのが、『ウォータープルーフ大作戦』。通常はタブーとされている、天井の上部に防水施工をして、雨漏りが下まで落ちてくることを止めるというものです。

タブーとされている理由は、水が溜まって天井が落ちてくる可能性があるから。この場所は元工場だったために煙突ファンがあり、天井上に隙間がありました。そのため水分も蒸発するだろうと推測。今の所、雨漏りは一度しかありません」

▲ 1階から2階をつなぐ階段も自分たちの手で作り直した。 ※写真提供:GASAKI BASE

▲ 2階のお風呂場を工事している足立さん。※写真提供:GASAKI BASE

お風呂場のこだわりは、タイル張りの在来工法。在来工法は、水が漏れる可能性があるので、ユニットバスのほうがいいと建築士や工務店に勧められる中、在来工法へのこだわりを貫いて、セメントやブロックを使ってDIYを実施。1カ月半、調べに調べて、無事にお風呂場が完成しました。結局、業者に委託したのは、ネット回線と電気配線、プロパンガスの設置のみだったそうです。

▲ お風呂場。今のところ、水漏れも起こっていない。

「お風呂を作る機会など、普通、一生に一度もないことでしょう。それが経験できた。これでもし万が一災害があった時、ホームセンターやもらった素材でお風呂場が作れる人になったということですよね」


おしゃれワードになってしまっているDIY

DIYを文化として根付かせたいと話す足立繁幸さん。DIYを非日常というものとして扱うのではなく、おじいちゃんを亡くした隣に住んでいるおばあちゃんが、家の修理ができないときに、それを代わりに直してあげるというような、日常的な生活に寄り添ったものこそがDIYなのだと足立さんはいいます。

その上で大切なことは、素材を入れるフォルダを意識的に変えてみること、素材の使い方を知ることなのだそう。

「例えば、大根。言い方を変えればただの根っこですよね。大根は食べられるとわかっているから、“食べ物”フォルダに入っている。でもそうやって“ただの根っこフォルダ”に入れられて、使い方を見い出せていないものって世の中にたくさんあると思うんです。また素材を見つけたら、その使い方を知っていることも大切。調理法を知っていると、大根を美味しく食べることができるでしょう。DIYも同じことだと思うんです」

▲ 「古いけど新しいモノ」コーナー 。新たなアイデアが生まれそう。

コミュニケーションも、DIYをする上で大切な要素だとも話します。「全部自分でできなくてもいいんです。例えば、間取りを考える、壁の塗装をする、家具を組み立てるなど、得意なことだけでもいい。自分の住居を組み立てるためのスキルやコミュニティを、どれだけ多様に持っているかが大切です。自分だけではできないことを、誰かが応援してくれるという環境そのものを作ることも、DIYスキルのひとつだと考えています」


いびつさを楽しむ、こんな店があってもいいよね

「『GASAKI BASE』はある意味、僕たち自身のショールームです。僕たちの生き方や考え方そのものが商品になっているんですよね。空間や商品に触れて、いいなと感じる人は買ってもらえたらいいし、“自分で作ればいいんだ”と気づいた人は、この場で実際に試して作ることもできます。人が調理方法を見て学ぶこともできるし、自分が実際に調理してみて学ぶこともできます。そういう店があってもいいですよね」

現在、家づくりやDIYなどを積極的にこなす足立さん。祖父から引き継がれた「自分達の家は自分達で作る」というマインドが、今や足立さんの根底に流れているようです。

▲ DIYや住居にまつわる悩み事は、お二人に話してみると解決するかも!

「いびつであればいい、といつも思っています。いびつさが、魅力であり商品にもなり得る。一般的な商品はマス(大多数や一般)に求められるものを作る必要性があるかもしれないけれど、住居に関してはもっと自由でいいと思うんです。こういうデザインにしたらきっとかっこいいよね、というものではなく、自分が必要だと思うものを作ればいい。

自分を変えずに生きることは、シンプルで一番大切なこと。それが暮らしの中に体現できると心地いいですよね。まずは、自分の得意分野やいびつなところを受け入れて、面白がることから始めてみてはどうでしょう?」


後記

DIYとは日常の中にあるもの。コミュニケーションにも役立つ、とてもシンプルなもの。足立さんのお話を伺っていると、肩肘張って生きなくてもいい、もっと自分を開放すればいいんだよと言われている気がしました。いびつさを楽しむというワードも、とても面白い考え方。いびつさをなくして丸く補正しようとせずに、凸凹なまま生きることが自分らしい住まい方につながるのかもしれませんね。

取材協力

「GASAKI BASE」

兵庫県尼崎市
「楽しむ」をコンセプトにした、DIYパーツ、リメイク家具ショップ。家作りやDIY、リノベーションにまつわる相談事も受け付けている。2階のリビングは、レンタルスペースとしての貸し出しも可能。足立夫婦とのコミュニケーションも、ものづくりのヒントになるかも!

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