公開日2025.11.28
素材で選ぶインテリア。「木」を自分らしく、空間に取り入れる

(写真)物件名:浜松の家、設計:一級建築士事務所 こより、写真:荒川幸祐、樹種:VIVOナラmetropolitan
インテリア好きの皆さんの中には、そろそろ北欧風やアジアン調といった、型にはまったテイストではなく、もっと“自分らしい空間”をつくりたいという方もいるのではないでしょうか。そんな方は一度、「素材」という視点でインテリアを見つめ直してみませんか?
今回は数ある素材の中でも「木」に着目。大好きな木の素材を、型にはまらず自分らしくお部屋に取り入れるにはどうすればいいのでしょう。木目の楽しみ方や木の魅力について、安多化粧合板株式会社の安多茂一さんと橋本征子さんにお話を伺いました。
木の魅力を引き出す技術【安多化粧合板株式会社】
▲ 安多化粧合板株式会社のギャラリー。写真:河田弘樹、設計 ninkipen!(画像提供:安多化粧合板株式会社)
大阪府八尾市にある安多化粧合板株式会社は、家具や建具の材料である「化粧合板」を製造する会社です。化粧合板とは、スライスされた木(突板)を仕上げ材として貼り付けた板のこと。「集成材」や「無垢材」に比べ、反りや伸縮のリスクが少ないのも特徴で、見た目の美しさから家具や建具などの内装建材として幅広く利用されています。
化粧合板のスペシャリストである安多化粧合板株式会社の安多茂一さんと橋本征子さんに、“木が持つ魅力”についてお話を伺いました。
安多化粧合板株式会社
代表取締役 安多茂一さん
安多化粧合板株式会社
橋本征子さん
安多化粧合板株式会社では、世界各地の木を取り揃えていますが、国内では主に北海道の大雪山周辺に生えるミズナラという広葉樹を主に使っています。一般的には材料になる木を切って山から降ろした後、角材などに加工します。一方、安多さんたちは自分たちで切った木をその場でスライス。すると他社では出せない木の模様に出会えるのだとか。
画像提供:安多化粧合板株式会社
加工した化粧合板の厚さは、反りや割れなどのリスクを最小限に抑えるための0.6mm。これは世界基準に合わせた厚さで、質感を重視した板は、住宅を中心にオフィスや病院などの幅広いシーンで使われます。
安多化粧合板株式会社のテーマは「愛おしい暮らし」。社員は6名の少数精鋭で、お客様との密なコミュニケーションで想いを形にしています。切り出した木材がどのような木目を持つ木か。それはプロでも木を割ってみなければわかりません。安多化粧合板株式会社では、独自に木を切り出し、その木を割ってスライスし、良い表情の木目を見つけ、デザインされた化粧合板として貼る作業まで一貫して行います。
「スーパーで買ってきたいい魚ではなく、自分で釣ってきた魚をどううまく料理するか。私たちはそんな料理人だと思っています」と安多さん。
『木目』の楽しみ方 1本の木が生きた時間を読む
▲ さまざまな木目模様
木目にじっと目を凝らしてみると、ただの模様ではなく、木が生きてきた時間や背景が浮かび上がってきます。木と長年向き合ってきた安多化粧合板株式会社の安多さんと橋本さんは、素材を“仕入れる”のではなく、“共に生きる”という感覚で扱っています。日々木材と向き合う橋本さんは、その面白さをこう語ります。
「木も、私たちと同じように生きています。その“生きた証”が木目に現れるんです。背景を知ると、模様の一つ一つに意味が宿って見えてきます」
たとえば、木目に細かな並目模様がびっしり入った板があります。これは、斜面に生えた木が幹をまっすぐ天に伸ばそうとして“腹筋する”ことで生まれる痕跡。波打つような細い線は、木が必死に姿勢を正そうとした記憶そのものです。
▲ 斜面などに生えた木が幹を天に伸ばそうと腹筋した木。木目に対して打ち寄せる波のように、細かく並目に刻まれた線が腹筋の跡。
寒さを感じたり、動物など外敵に身の危険を察したとき、木は震えます。人間と同じように“鳥肌”が立ち、その細胞変化の跡が木目に刻まれます。
▲ 木目に残る、鳥肌の跡。(画像提供:安多化粧合板株式会社)
傷を負ったときには、木も自らを守るために“かさぶた”をつくります。やがてその部分が盛り上がり、個性的で愛嬌ある模様に育っていくのです。二股に分かれた木も同じ。割けた部分を癒すために細胞を重ね、その痕跡が独特の模様として残ります。
▲ (写真左)木のかさぶた。コブモクと呼ばれる柄になる。(写真右)大きな二股の木。(画像提供:安多化粧合板株式会社)
木目には、そんな1本1本の木の生きざまが刻まれています。
また、樹種名を“日本の木の名前”に置き換えてみると、木目に隠れた背景がより鮮やかに立ち上がります。
- ・ウォールナット → クルミの木
- ・Fumed-cherry → さくらんぼの木
- ・アップル → リンゴの木
- ・Truffle-Beech → 菌根(トリュフ)と共生したブナ
- ・大雪山のミズナラ → ドングリの木
▲ (写真左)大雪山のミズナラ=ドングリの木。(写真右)Fumed-cherry=さくらんぼの木。(画像提供:安多化粧合板株式会社)
▲ (写真左)アップル=リンゴの木。(写真右)Truffle-Beech=キ菌根(トリュフ)と共生したブナ。(画像提供:安多化粧合板株式会社)
「ウォールナット」と聞くより「クルミの木」と聞くほうが、森の中でリスが枝を走り回る風景が思い浮かびます。そんなふうに“木の物語”を重ねて見ると、木目の模様はただの柄ではなく、1本の木が育ってきた記録として立ち上がります。
木目の背景から想像をふくらませ、お気に入りを探す楽しさは、誰にとっても特別な体験になるのかもしれません。
▲ 動物の模様にも似ている、木目の模様
空間に取り入れるには? 木の魅力を引き出す【5ステップ】
木は一本ごとに表情も個性も違う生きもの。木の魅力を空間の中でどう活かすか。「どんな木なら飽きがこないか」「お部屋のインテリアにマッチするか」。迷ったときに大切なことを5つにまとめました。
Point1|部屋の“ひと面”を木に変えて、くつろぎ空間に
木は、そこにあるだけで場の雰囲気を変えます。「部屋全面をリフォームするのは、ちょっと難しい」という方は、まずはお部屋の“一面だけ木を使う”ことから始めてみませんか。
例えばリビングなどくつろぐお部屋で、いつも座るソファから見える壁を変えてみてもいいですね。お部屋の印象がやわらかくなり、光の反射も穏やかになるでしょう。例えば静かに過ごす時間が欲しい場所では、トイレの扉や壁、鏡越しに見える壁などもおすすめです。毎日視界に入る“ひと面”を贅沢に使い、愛でる楽しみを味わってみましょう。
▲ カウンターにある、縦方向の木目が印象的な建具と壁。床や天井と木目の流れと直角にして空間にリズム感を持たせている。物件名:Casa Delta、設計:Horibe Associates co., ltd.、
写真:三木夕渚、種名:りんごの木(画像提供:安多化粧合板株式会社)
▲ (写真左)物件名:RESIDENCE TOKYO、設計:SYMBOL + SATOSHI NOBEKAWA | 延川聡志、写真:Keishin Horikoshi/SS Inc.(写真左)物件名:Rokko Private Villa、設計:SUPER-STANDARD、写真:RiLi、樹種:カンファーバール株式会社(画像提供:安多化粧合板株式会社)
Point2|よく触れる場所にこそ、天然木の“手ざわり”を取り入れる
五感に届く場所にこそ、本物の素材を。例えばソファの隣のサイドテーブルや、キッチンの引き出しなどに取り入れてみましょう。プラスチックなどのケミカル素材ではなく、天然木の手ざわりをあえて毎日触れる場所に取り入れるだけで、暮らしの質がワンランクアップします。
安多化粧合板では、0.6〜0.8mmの“厚突き”突板を使用。これは薄すぎず、木のぬくもりを手のひらで感じられる厚みです。人工素材では得られない微妙な温度や、年を経るごとの艶感が、“使うほど愛着が増す”体験へと変わります。
▲ 各扉にある縦の白いラインは、一般には扉の真ん中の面にデザインしがちだが、あえて縁に寄せた。物件名:RESIDENCE TOKYO、設計:SYMBOL+、写真:Keishin Horikoshi/SS Inc.、樹種名:VIVO大雪山のナラ節なし(画像提供:安多化粧合板株式会社)
▲ 物件名:BRUN、設計:ZERO KOBO DESIGN、写真:三木夕渚(画像提供:安多化粧合板株式会社)
Point3|木目で風景をつくる、空間のリズムを楽しむ
リビングや書斎の壁を木に変えるときなど、パネルの表面に流れる木目に注目してみましょう。複数枚組み合わせるなら、“木目で風景をつくる”ことをイメージしてみてください。樹種が混ざっても、全体が調和していればOKです。
少し“ずらす”ことで自然なリズムが生まれ、インテリアが呼吸するようになります。自分自身でカスタマイズすることで木への愛着が湧き、木の持つ力を身近に感じとることができるかもしれません。
▲ 玄関正面の空間に天井まで届く大きな収納棚に、燻製のオーク独特のグラデーションが映える。物件名:House Ashiya、設計:Design Works Sol、写真:Stirling Elmendorf Photography、樹種:ファムドオーク(画像提供:安多化粧合板株式会社)
▲ 壁一面の収納として、シンプルな空間にトーンを揃えつつ、KOTO_nubeの木質感であたたかさを添えた。物件名:佐久Tさんの家、設計:アトリエ137 Hiroyuki Suzuki、写真:安田誠建築写真事務所、樹種:KOTO_nube(画像提供:安多化粧合板株式会社)
Point4|“光と影”で木目を活かす
木目は光をやわらかく吸収し、時間帯によって違う表情を見せる素材。昼は陽光を受けて、夜は照明の光を受けて、それぞれの異なる表情を楽しむのも、ひとつの木の愛で方です。改装する場合は、あらかじめ照明計画を立てておくと良いでしょう。
▲ 物件名:Housein Ashiya2、設計:H& Architects & Associates、樹種:VIVO大雪山ナラ faviken style(画像提供:安多化粧合板株式会社)
▲ 数千年間も泥の中で保存された黒褐色が特徴の、ボグオークを背面の棚に使用。物件名:入船の家、設計:STUDIO KAZ、樹種名:BogOak8000年、ファムドユーカリポメレ(画像提供:安多化粧合板株式会社)
ベッドサイドのランプシェードを突板にすると、光の中に木目の模様が浮き出ます。あるいは室内のスポット照明を使って、お気に入りの木目模様が際立つよう、突板を置いてみます。光と影で木目を活かす表現で、その場が癒しの空間に変わります。
▲ 光を当てることで、木目が生きる。写真:三木夕渚(画像提供:安多化粧合板株式会社)
Point5|自然の背景を味わう
厳しい自然環境で育つ山の木は、さまざまな背景を背負っています。幹の成長に伴って枝が巻き込まれたときにできる「節(ふし)」があるのも、木材の外側に虫食いが出やすい「白太(しらた)」があるのも、木の個性。その個性をそのまま室内に取り入れることで、空間に自然のストーリーが流れ始めます。
安多化粧合板では、通常処分されてしまう「ナラ枯れ」を起こした木も、きちんと処理を行った上で材料として使用します。スライスすれば、流れる木目の間に点在する虫食い穴だって、むしろオリジナリティあふれる模様に。自然の背景をそのまま暮らしに迎えること。
それは単なる“木のインテリア”ではなく、持続可能で豊かな生活につながる選択なのです。
▲ ナラ枯れした木。(画像提供:安多化粧合板株式会社)
▲ 物件名:SAKURA DEEPTECH SHIBUYA、設計:SIGNAL、写真:Tomooki Kengaku、樹種名:ナラ枯れ(鉄媒染)(画像提供:安多化粧合板株式会社)
座面の表情が異なる、実のなる木のスツール
座面の表情が一つひとつ違うスツール。木目そのものを楽しめるアイテムを一つ暮らしに迎えてみるのもおすすめです。なかでも今回紹介したいのが、座面の表情が一つひとつ異なる“レディメイド”から生まれた「Stackin’(スタッキン)」。
▲ 販売予定価格は未定(画像提供:安多化粧合板株式会社)
レディメイドとは、「すでにある素材から、新しい価値やアートを生み出す」考え方のこと。座面には安多化粧合板の突板を、脚部には株式会社摂津金属工業所の金属加工技術を用い、2社の技術を“積み重ねる”ことで一脚のスツールが完成しました。量産品ではなく、ひとつひとつに木の個性が宿る特別な一点物。部屋に置くだけで、実用品でありながらアートピースのような存在感も放ちます。
一脚からでも挑戦しやすいスツール。ぜひお気に入りのスツールを、家族の一員に加えてみませんか。
まとめ
よくキャンプに行く人が、自然に囲まれていると気持ちが落ち着くと言います。
やっぱり木という、私たちが生まれる前から静かに大地に根を下ろし、息づいている存在に触れ、安心できるからかもしれません。
毎日キャンプは無理だけど、せめて家の中に木を取り入れられたら。模様によってさまざまな表情がある木の中から、お気に入りを身近に置けば、おのずと生活の質を、一段アップできるかも。小さな棚板やスツール一脚からでも構いません。まずは“好きな木”をひとつ、暮らしに迎えてみませんか?
取材協力
安多化粧合板株式会社
突板を用いた化粧合板の製造を専門とするメーカー。木が持つ自然の模様や質感を一枚ずつ丁寧に活かした板材を製作。スライスから仕上げまで一貫生産し、反りや伸縮を抑えながら美しい表情を引き出し、住宅や店舗、オフィスなど多様な空間に用いられ、「木とともにある心地よい暮らし」を提案しています。
ライター
ライター
國松珠美
愛媛県生まれ。兵庫県在住。航空会社のグループ会社社員として主にコールセンター業務に従事したのち、大学院研究室事務を経てライター活動を開始。インタビュー取材を軸に、ビジネスや旅行、町ネタ、音楽に関することなど幅広いテーマでWEBメディアを中心に執筆している。





