らしさのある家

公開日2024.09.13

ガレージを兼ねたコンテナハウス!存在感を放つ、2階が自宅の鉄板焼き店

大阪・関目高殿駅から徒歩2分ほど、住宅街の中に、突如それは現れます。鉄板焼き屋「てっぱん家 びと」は、コンテナを12個積み上げて作られたコンテナハウス。思わず立ち止まって見上げる人もいるほど。一見、バイク屋さんのような、古着屋さんのような出で立ちのお店が誕生した経緯について、オーナーの井上智彰さんにお伺いしました。

トラブル続き!?憧れのコンテナハウスができるまで

▲ コンテナハウスの1階が「てっぱん家 びと」。外観を見ると凹凸しているのは、コンテナの長さが異なるため。

もともと、大阪の谷町六丁目でバーを経営していた井上さん。転機となったのは、実家の建て替えを考え始めたことでした。当時から母親と実家で同居していましたが、2階建て長屋という住み慣れた家ではありつつも、老朽化する家をなんとかしたいという想いが募っていました。

「若い頃にアメリカの雑誌で見た、ダブルドアコンテナ(観音扉が両サイドに取り付けられているトンネルタイプのコンテナ)を思い出し、家を建て直すならコンテナハウスにしたい!と考え始めました」と井上さんは当時を振り返ります。

▲ オーナーの井上智彰さん。元JR職員という肩書きもお持ち。お話し上手で笑いが絶えない取材だった。

▲ 井上さんが影響を受けたコンテナハウスを取り上げた冊子

もともとバイク好きな井上さん(実は、先日取り上げた、GarageDDさんともお知り合い)。バイクが置けて、メンテナンスもできるスペースのあるガレージをイメージします。それと同時にその場所で新たな飲食店もオープンさせる計画でした。広がる夢を、知り合いのインテリアデザイナーに相談したところ、コンテナを使って設計ができそうだということで計画がスタート。2017年のことでした。

▲ 入り口には大きさの異なるバイクが3台。現在所有するバイクは合計8台。

▲ 施工時の様子。一つひとつコンテナを積み上げていく。写真右は両扉が開いているレアな状態。

3カ月で完成する予定のコンテナハウスでしたが、日本製のコンテナでは構造計算をすると建てられないことが判明!中古のコンテナを利用する予定でしたが、それが叶わず、新品のコンテナを海外から取り寄せることに。予算が跳ね上がり、予想外のトラブルも次々と発生。

「その時には前の店は畳んでしまっていたので、家ができるまで無職状態でした(笑)。でもコンテナハウスを作ることは諦めませんでした」。こうして実際に完成するまでに、10カ月を要します。

▲ 観音扉を開けると、コンテナの中に扉が納まっている構造。

広さが確保された、太陽の差し込む明るい部屋

コンテナハウスは、長さの異なるコンテナが各階に4つずつ積み上げられている構造。

「何カ月も基礎をうっただけの空き地状態だった」という敷地に、コンテナは2日で積み上がったといいます。基礎にコンクリートを流し込み、突き出したボルトをパイプでコンテナとつなぎ合わせることで、揺れを防いでいます。コンテナのいいところは、雨漏りしても構造が腐らないところでもあり、外側からパテ埋めをすれば収めることができるそう。

また階段を外付け階段にすることで、建築基準法上の建ぺい率の問題もクリア。その分広い間取りも充分に確保されました。

▲ コンテナの壁面に付けられた外階段。

▲ 2段目に積み上げられたコンテナ。少し浮いている。

積み上げが終わってから、内装に着手。内装の工事も、10社以上の工務店に「やったことがないのでできない」と断わられるなかで、知り合いの建築士が「意地で見つけてくれた」工務店さんに出会いなんとか完成。当初の予算をオーバーしているため、壁紙などはDIYで井上さんが現在進行形で続けています。

▲ 階段の様子。写真左側はコンテナの壁面。右側にはDIYでアルミホイルを貼るという斬新なアイデア。

完成したコンテナハウスは、外観だけでなく、内装もユニーク。1階は井上さんが経営する飲食店、2階はリビングダイニング、3階は寝室と風呂、そして屋上という間取りです。

「立て替える前の間取りよりも広くなりました。本当に完成するのかと心配していた母親も、今ではご機嫌に暮らしています」。長屋だった頃にはなかった大きな窓から、採光もたっぷり。生活スペースの2、3階の壁には断熱材を入れているため、夏冬も以前より快適に過ごせるそうです。

▲ 2階のリビングダイニング。

▲ ゲストルーム。元々は娘さんのお部屋だったそう。

▲ 壁の塗装もDIYで。愛情たっぷり。

▲ 屋上。バーベキューをすることも。

▲ 太陽の光で、植物もすくすくと。

井上さんの「好き」が集まる、1階の店舗スペース

1階の「てっぱん家 びと」は、お店でありながら、ほぼ井上さんのプライベートスペースでもあります。入り口では集めたバイクが出迎え、服が置かれた棚は古着屋さながら、奥の棚にはマンガや小説がずらりと並び、映画を見られるスクリーンもセット。お店を閉めた後は、井上さんのリラックスタイム。お酒の余韻に浸りながらそのまま店内で過ごす時間が、たまらなく好きなのだそう。
「好きなものに囲まれた空間なので、いつまでもいられちゃいます」

▲ 私物も陳列の仕方で、こんなに古着屋テイストに。

▲ 休日には、1階スペースは、バイクのリベア工房にもなる。

▲ 閉店後はナイトシアターに早変わりする。

お店のオープン前や休日にバイクに乗って出かけるのも、井上さんの日課。「マンガ喫茶に行くとかおいしいコーヒーを飲むとか、とにかく目的地を作ってバイクに乗ります。気持ちが切り替えられて、心地のいい時間です」。バイクはその日の気分によって選んでいるのだそう。

「お客様が家族みたいな感じ」だという井上さんと話がしたい、話を聞いて欲しいお客さんが続々と訪れます。話しやすいお人柄も相まって、色々な相談を受けることも多いのだそう。「僕の店や存在が、何かしらの心のヘルプになっていたら嬉しいですね」と微笑みます。

▲ 「なにを食べてもまずいですよ」と言って出された料理は、何を食べてもおいしかった。

8年経った今も、全く飽きていないと井上さん。コンテナハウスで暮らしはじめてから、満足感がずっと続いているそうです。自分らしい家づくりってどうしたらいいのか、伺ってみました。

「暮らしって、生き方につながると思うんです。嫌ならその時に辞めたらいいし、新しいことを始めればいいと思います。あまり現状に縛られ過ぎず、貪欲に夢を叶えてほしいですね。家を建てる時も、あまり考えすぎないくらいでちょうどいいかもしれません(笑)

このコンテナハウスやお店は、自分の部屋に人が遊びに来てもらう感覚に近いかも。僕は、人とのつながりがある暮らしに充実感が得られるタイプ。家で一人でご飯を食べるより、お店に出かけて色んな人と交流するほうが好きなんです。そんな風に、自分が心地がいいと思う方を選んでいくだけで、きっと豊かになると僕は思います。暮らしが豊かになればお金もついてくると思うので、まずは豊かな暮らしと気持ちを手に入れて欲しいです」

▲ 素直に「好き」を集めれば、豊かな暮らしになるのかも。

筆者コメント

井上さんの軽快なトークに、笑いが絶えない取材になりました。コンテナハウスが完成するまでの紆余曲折の物語をひとしきり伺った後、「いろんな人に助けてもらってこの店はできた」という言葉に、井上さんの人柄とこれまでの人生が見えたような気がしました。家の形はライフスタイルに合わせて異なるし、ライフステージに合わせてどんどん変えてもいい。変化していく暮らしのあり方そのものを楽しめるようになったら、家づくりはもう趣味の域になるのかもしれません。

筆者

ライター 小倉ちあき

ライター

小倉ちあき

企業内での広報部経験を経て、現在フリーランスのライター・インタビュアー。地域・文化・ものづくりの領域で主に活動し、今を捉えている。ジャンルの境界を越えて、有機的につなぎあわせる編集術を日々模索する。

取材協力

「てっぱん家 びと」

関目高殿駅2出口から徒歩約1分にある、コンテナハウスの鉄板焼き店。”人々が集まる場”というところから「人びと」の「びと」と名付けられたお店は、オーナーの井上さんに会いに来るお客で夜中まで賑わう。鉄板焼メニューは逸品ぞろい。

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